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聖ウァレンティヌスはかくかたりき



どこか緊張する背中を、ふすまが閉め終わるめいっぱいまで
じっとりと見つめる。

(さてどうするか)


悪い予感しかしないのは間違いない。
柔造が勝呂の為にと腹をくくった時は、もっぱら勝呂にとって
厄介で面倒な事にしかならないのだ。

だてに2年もの間、拒まれ続けていない。
このパターンはもう攻略済みだ。
(こういう時は、)

「りゅうじさ…まっ?!」
「よっと」

(話を聞かないに限る)

一向にこたつへ来ない勝呂をいぶかしんで振り返った柔造を
背中からかぶさるように座る。
1人暮らし用のこたつは狭いが、今はその狭さがいい。

体格の良い男2人が1辺にいるのだ。
当然、まともな動きなど取れるわけが無い。
「坊っ!」
「お前背中冷たいで。どんだけ外おってん」
唐突な抱擁に慌てふためく従者などどこふくかぜ。
冷えた背中ごと抱き込んで、昨日から眺めていたうなじにようやっと吸いつく。
「っ!」
途端、ぎゅっと身体を強張らせる姿が愛しい。
強張って縮んだ肩をなだめるように耳裏、こめかみ、肩口とキスをしていけば、
次第に力は抜けていくが、首を伸ばして目じりに唇を寄せると背けるように斜め下へ俯かれた。
「…」
まだ決意があるのだ。
面白くは無い。が、離す気は無いと決めているので気にしない。
ごろ、と猫が喉を鳴らすように肩に頬を寄せた。
普段はピンと背筋を伸ばしていることが多い柔造であるが
こうして後ろから囲んでしまうと不安なのか心もとないのか、小さくなっていることが多く、
少し丸めた肩に顔を預けると何とも言えぬフィット感があるのだ。
(ふふ)
この収まりの良さを知ったんも、付き合いだしてからや。
「あー、ぬくなってきた。背中」
気持ちえぇなあ…。
あらためて擦り寄ると、柔造が大きくため息を付く。
息を吸い込んだのが肩が上下することで伝わって、勝呂は安堵に息を吐いた。

諦めたのだ。

今日は、別れを告げるのを。

これから先、何度先伸ばしにさせるのだろう。
何度でも諦めさせる。何度でも、手に入れる。

「柔造、こっち向きぃ」


「キスしたい」


う、と柔造が身を小さくした。
耳まで赤くして何やらうめいているのを見るのも愉しい。
後ろから抱いたり、うなじに口付けたりすることだって、
十分親愛のじゃれあいからは出ていると思うのだが、
直接的な言葉を伝えると、しばし戸惑うのはもういつものことで。
最初こそなんでやねん!とカッカしたものだが、これはもうクセだと思う事にした。
狭いこたつに後ろから。組んだ腕は相手の腹の上。
囲いきってしまっているのだ。少なくとも、今は。
どれだけでも迷えばいい。落としどころは、変わらない。

な?とダメ押しに鼓膜に吹き込むと、
「そ、その前に!」
と声を張られた。
(あ、先延ばしにしよったコイツ)
予想と違う答えに目を丸くする。
落としどころは変わらないが、矛先をずらされたことにほんの少しだけムッとして。
素直にしてれば早帰れるんに…とどこか冷たいな気持ちになった自分の思考に苦笑する。
(帰す気ぃなん、無いやろ俺)
獰猛な欲が滲む瞳と口元を細める。
柔造がこっちをむいていなくてよかった。
目が合ったら、話など聞かず喰らい付いている。

はぁ、と息をつくことで自分の衝動をなだめ、「どしたん?」と促すと、
ぽつりぽつりと背を向けたまま、柔造は口を開いた。

「チョコ…、手作りの、」
と聞いた段階で先が見えた。
「ああ、出張所持ってたんやろ?」
「えぇ、まぁ」
「俺が行ったらもう無かった」
「う」

欲しかったんですか、やっぱり…と項垂れる姿は可愛い・が。

「欲しかったに決まってるやろ。」
「うぅ…」

ここはしっかり主張しておく。
すいません、と謝罪しかしない柔造にチクリと胸が痛んだ。
柔造が手作りを諦めて市販品に走ったのは、間違いなく自分の一言のせいだ。
非はこちらにも十分あるというのに、欠片もそれを口にしない。
(喧嘩にもならんな…)
柔造は勝呂が気を悪くすれば、100%近い割合で自分が悪いとそれは思っている。
それは、もう刷り込みのような回路。
それも、そのうち改善したい。
はぁ、と先ほどとは違う意味で息を吐く。

「えぇて。俺があれ欲しいとか言うたからやろ。
 お前が全部悪いわけやない」
「坊…」

「でも1つ位俺の分残すべきやったぞ」
「う」

「すいません…」
堂々巡りになりそうな柔造の言葉と女々しい自分(だってやっぱり欲しかった)に強引に
ケリを付けるように、ぎゅうと音がする位抱きしめなおした。
鼻をくすぐる好きな人の匂いに落ち着く。
自分の1日ぐるぐるしたが、きっと同じ位柔造もぐるぐるしていたのだなと
思って緩やかに笑みがこぼれた。

「もうえぇから。ほら、こっち向きぃ」

「ちゅーしよ。柔造」
「…はい」

先ほどよりだいぶとすんなり、柔造は腰を上げた。
こたつに入りながら身体全部をこちらに向けるのには無理がある。
上にまたがらせるのも非常に魅力的だが、多分、いや絶対に柔造からはしない。
苦笑のまま勝呂も後ろにずれ、膝を立てる。もうこたつなどつま先が申し訳程度にしか入っていない。
体育座りの間出来たスペースに柔造は正座をして向かい合った。
「っ、ぼ、ぼん」
相手が顔を上げるのも待てずお預けを食らった目じりからついばむ。
ちゅ、ちゅ、
「ふ、」
赤い顔のまま口元も目元も引き結んで口付けを受ける姿のなんとまぁ。
「かいらしな…」
「え?」

どうせ聞いたらおっさん相手に、とまた何やら言うに違いない。
野暮は挟みたくなくてごまかすように額をついばんだ。
「なんもない」
唇で顔をなぞるようにこめかみから目元、鼻先と移動する。
唇の前まで来て、顔を少し離して目を合わせた。
端正な顔がぼ、と音を立てて昂揚するのに気分が良くなって笑う。
今日はかなり自分のペースに引き込めている。
求めるのは決まって勝呂だが、1度だけ、本気で相手を怒らせてしまったことがある。
付き合って間もない頃だ。
今ほど関係に自信が無くて、好きで好きで溜まらないくせに手放そうとした。
それも、かなり手ひどく。

『俺やって、竜士様が好きなんですよ』
こんなの、無いでしょう。

そう言って静かに傷ついた彼を、結局やっぱり、放せなかった。
仲直りの夜、それはそれは煽られた。
十の歳の差、そして経験値をこれでもかという程に見せ付けられて、
幸せで満たされた気持ちと同時に驚くほどの敗北感を味わった記憶がある。

(今じゃえぇ思い出やけど)
唇のほんの少し横をついばめば柔造が少し瞠目して。
顔を引いてから口を開き、ねだるように目で合図すれば、柔造が仕方ないなぁと言うように
腕を肩に回して顔を近づけてくる。
(あぁ、幸せや)
そう思ったとき、


RRRRRRRRRRRRRRRRRR!


バイブレーションと共に盛大に携帯が鳴り出して2人で飛び上がった。
Secret

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