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SS
「お疲れ様でしたー!」
「ルカちゃん元気だな。お疲れ様~」
「お疲れ」
「お疲れさん」
冬でもライブハウスは熱気でかなり暖かい。
照明もあいまってライブ中はあついくらいで、ステージが終わった直後は汗だくとはいえ当然冬服の私服に着替えるのは少しためらわれる。
更衣室の前にある飲食スペース(と言っても自販機と灰皿とやっすいソファーがあるだけだが)で汗が引くまで反省会とは名ばかりのおしゃべりタイムがしばらく続くのがいつもの光景。
カイトもがくぽも気の合ういい奴だ。こちらが喋らなくても勝手にどうにでもする。楽でいい。
「うーん、炭酸が飲みたいな…」
ステージ中は下ろしていた髪をざっと結ってまとめ、自販機とにらめっこしているのは俺のバンドでは紅一点の巡音ルカ。
本番中は暗いし正面から見ることは無いのであまり気にならない(というか気にしないようにしている)ライブ衣装はやはり音楽性の関係もあって薄着というか、露出というか。
(…いたたまれない)
別に変な意味じゃない。断じて。
あいつは炭酸が飲みたいといいながら、結局押したのは六甲の天然水。なんでだよ。
(あぁそういえば前にアマでも見られる場に行く以上体系維持は必要なのって言ってたっけ。)
火をつけたばかりの煙草を灰皿に押し付けて立ち上がる。
「あーあもったいない」
笑ったカイトに先に着替えると告げる。カイトは煙草をもう止めた。



「あれ?もう着替えるの?先生」




「…あぁ。」

巡音ルカは、俺の元教え子なのである。



さすがに季節も季節なだけあって、しばらくすれば気化熱も助けてすぐに体は冷たくなる。
趣味のライブで風邪引いて明日学校に行けなくなったら本末転倒だ。
ハイネックのセーターの上にジャケットを羽織ってきっちりしめる。戸締り頼むぞ・と年長者らしく念を押して先に更衣室を出て、先ほど溜まった飲食スペースで改めて一服。
自販機の横のゴミ箱に、巡音が飲んでいただろう天然水の空ボトルが目についてまたいたたまれなくなった。
ガシガシとワックスで荒れた髪をかき回す。
(教師がこんなんでいいのか…!)
なんだあの格好!いや別にロックだしちゃんと曲にもライブの雰囲気にも合った服装ではあるが!
若い子があんな足だの肩だの出す服着ていいのか!
しかも元とはいえ教え子に着せてどうする!(いや俺が強要したわけじゃないが!!!)

こんな遅くまで連れ回して…。


見つかったら粛清ものだな。
あそこの家には顔も割れてる。昔よく家庭訪問で通ったからな。
「はぁー」
ため息しか出ない状況だ。


「どしたのセンセ。ため息なんかついちゃって。」


お前の素行について、先生はおおいに悩んでいたんだよ。



おまたせ・と言って笑う少女は紛れもなく俺の元教え子。
昔からこんな風に笑う子だったけど両親がなかなか厳しくて反抗してトラブルを起こしてた時期で、俺が教育実習で持ったクラスの1番の問題児だった。
何度も話しあってようやく理解し合えたあたりで実習終了。両親にも挨拶に行き、すこし改善の兆しがあると思って満足して学校を去った記憶があるが。
(そう簡単にかわらないか。)
相変わらず親は厳しくて音楽に理解が無いらしく、学校こそ行っているようだが、生活態度がどの程度評価されているのか大いに怪しい。
バンド仲間も同じ学校の生徒で、まぁ名前聞いただけで分かるお嬢様学校だ、親も似たようなタイプが多いのだろう、親に反対されて次々とバンド辞め、最後は巡音一人になった。
それでも諦めきれず、歌えもしないライブハウスに通い詰めてたところに、俺と再会したわけだ。

「せーんせ?」

その時のコイツはすごく寂しい目をしてて。



”俺と音楽するか?”



「…なんでもない。というか、先生は止めなさいって言ってるだろう。帰るぞ」

どうしてもほおっておけなかったんだが。



「なんか先生今日テルスイッチ切れるの早くない?」
もうキヨテル先生だ。


自分では分からないのだが、教師っぽい口調になると巡音はこういう。
テルスイッチ切れたってなんだいったい。

「巡音さんが先生って呼ぶからじゃないですか?」
「そこ言っちゃいますか!」

やれやれと腰を上げて立ち上がる。煙草はしっかり根元まで吸った。
ケチ臭いみたいな目で見るな巡音。




「やっぱ外出ると寒いね…!」
「そうだなー」
ぶらぶらと夜道を歩く。
夜も遅くなるから帰りはいつも送るのだが、今日はいつもよりゆっくりと着いてくる教え子に気づく。
意味ありげな視線を送っていたら気づいたのだろうか、でも何も言わずにゆっくりと笑って。
「家にはいつでも帰りたくないよ」
といわれてしまった。
こういう鋭いところは特に年齢に合わないよな。


「ねーねー先生、これからお茶しようよ。おごって」
冗談らしく冗談を言ってごまかして。
「馬鹿言うな。この時間だぞ。閉まってるだろ。大人しく帰るぞ」
「マックなら開いてるよー」
俺が断るのを分かっててそうやって言う。

「ダメだ」
「ケチー!100円のバーガーでいいのにー!」

前に1度だけライブはともかく私服は気をつけろと釘を指して以来露出の少ない巡音の服を、どこか安堵の気持ちで見る。出ているのは指先くらいで、細い指はなんだか見ていてかわいそうだ。
こういうのが普通なんだよな。
罪悪からの逃げの気持ちが強い押し付けだと、分かっている俺の言葉を忠実に守ってくれる。


「ケチはモテないよ先生!」
「…お前な」


マクドナルドどころか攫うぞ。

どこか、遠くに。




脱力しながら見つめたら、また笑われた。
ゆっくりと。後を引くように。




いいよ



とか言われた気がしたのは俺の聞き間違いだと思う。



「…」
ふと先にコンビニを見つけて立ち止まってしまった。
横の元生徒の目が輝く。
やれやれとため息をついて自動ドアをくぐると後ろから歓声。
俺まだなにも言ってませんか。
缶コーヒーとコーンスープと肉まんを2つ購入。
コンビニを出てすぐ食べる。割と広めに作られた駐車場の一番暗いところで少しばかり大きくて派手なバイクが数台とたむろする若者たちが目に入ったが知らん振り。
どうせ俺達も大差ない。

食べ終わった巡音に手の平をさし出す。
相手がそれはびっくりする程目を見開いた。

なんだ?



「ゴミ、一緒に捨てるぞ」



刹那レベルの間のあとで慌てて押し付けられるあつあつ肉まん、とかかれた紙袋と空いていないカラシ。(付けない派か。)
底にコーンが残って飲めなかった・と渋い顔の巡音のコーンスープの缶も貰って一緒に捨てる。
「先生、さっきのさぁ。」
「何だ?」
聞き返したのに何も言われず、何だよといえば何でもないと言われる。
何だ、分かりにくいな。

しばらく粘ったが答えて暮れそうも無いので、諦めた。
「さ、帰るか。」
「はーい」
何ごともなかったように返事をして、また夜道を歩く。

少し広い道路に出て信号を渡れば、100m程で巡音の家だ。
さすがに玄関まで男に送られてるのを見られるとまずいので、角で分かれてこいつが家に入るのを見届けてから俺も自宅に帰る。
最後の信号が点滅しはじめた。横の気配は急ぐ気もなさそうなので歩く速度は速めない。
どうせあと少しだ。
(寒いのだけが心配だけど…)
そう思って横に目も向けたその時。


「…ぅわ!」





びっくりした。
情けなく声を出した俺をからかうでもなく、顔すら上げず巡音は俺の横にじっと立っている。
心なしか紅潮した耳を見て、クリスマスには手袋よりもイヤーマフを送ろうと思った。





(手は、あったかいみたいだしな。)



分かれ道まではあと100m。
少しでも熱が伝われば、いい。






END




***************************
恥ずかしい!w
きっと玄関先まで手を離してもらえなくて先生困ったらいいです。
おうちの人に見られたらーみたいな。
そんな関係なの私と先生?って言われてさらに慌てる。
けどキッチリいつものとこで離れると思います。

「巡音」
ふてくされる少女にゆっくり笑いかける。
握った手に空いたほうの手を近づければきゅう、と音がする程強く握られて。
可愛いけど、しっかり線引きはしよう、巡音。
引き離すんじゃなく、手を添える。
冷たい手をゆっくりとさする。
「冷たいな。」
「・・・冬だから仕方ないの」
無理矢理どうにかしても意味がないことは分かってる。俺はお前を拒否しない。
理解するよ、どこまでも。
握った手がゆっくりと解かれた。

「あったかくしろよ巡音。明日も学校、しっかり行けよ」
「分かってる。」

「おやすみ」
「おやすみなさい、キヨテルさん」





どんだ爆弾だよ。






ホントに終わり!
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